友人を送る 李白

好きな漢詩を紹介いたします。
友人を送る 李白

此地一為別        此の地 一たび別れを為し
孤蓬万里征        孤蓬 万里に征く
浮雲遊子意        浮雲 遊子の意
落日故人情        落日 故人の情
揮手自茲去        手を揮いて茲より去れば
蕭蕭班馬鳴        蕭蕭 班馬鳴く

リズム、語句ともに美しくて大好きな詩です。

青い山が市街の北方に横たわり、白い流れが都市の東方をうねっていく。
この地でいったん別れてしまえば、根茎をはなれた蓬がぽつんと独り万里の彼方
まで旅をしてゆくことになる。
あの空に浮かぶ雲こそは旅人の心であり、
沈みゆく夕陽こそは君を送る私の心である
旅立ってゆく君が手を振ってここより去ってゆくと、君を乗せて別れてゆく馬、
班馬もものさびしくいなないている。

律詩は通常第3句と第4句、第5句と第6句が対句を構成する。
この句は3・4は対句がくずれている。
1・2がきちんと対句をなしている場合は3.4が対句だという約束事が
破られることがしばしばある。これはその典型的な詩だそう。

「定めない人間の運命を、蓬が風に吹かれてどこまでも転がり、漂って行くさまに
たとえた「転蓬」という詩語がある。
ここでは「孤蓬」という語が出てくる。これはこの旅人をたとえている。

第4句・第6句より、旅立つ人が失意の中にあったことが分かる。
送る人の心のなかには夕陽が沈んでいるのだから、見送られる人は失意の情況にあり、見送る人は悲哀に沈んでいたと読み取れる。
最初の1聯で遠景と近景で対立的にとらえ、明るい輪郭で別れの場所が描かれているだけに、結びの2聯の描写が際立っている。

この歌は色や植物、風景が数多く出てきて、頭の中で景色がありありと浮かぶようです。
心理描写がとても美しく、個人的にとても心に残っている詩です。