自由に至る旅

自由に至る旅 ―オートバイの魅力・野宿の愉しみ (集英社新書)

自由に至る旅 ―オートバイの魅力・野宿の愉しみ (集英社新書)

内容紹介

オートバイでの野宿旅を、長い間続けている人気作家が書く、初の指南書。縛られた日常から脱出し、
自由な自己を再発見する旅とはいかなるものか、その思想を具体的な経験を通して語る。

不自由な日常から、自由な世界へ。オートバイを愛し、野宿旅を続けている人気作家が、その思想と実践について語る。
北海道から九州までのお薦めのポイント、野宿や運転技術の具体的なノウハウなど、役立つ情報も満載。
さらに、著者自身のユニークなエピソードも交えつつ、自然の呼吸を皮膚で感じる素晴らしさ、
速度の持つ超越的な力など、自由な旅に出ることの本質を論じていく。カラー口絵4ページをはじめ、
著者秘蔵のツーリング写真も掲載。 

この本は「バイク、大好き!」ではないです。
著者の、世の中の、日常に行き詰ってる(生き詰まってる)人たちに向けた旅のススメです。




暴走族がけたたましい音を立てて自己主張するのも、府中の試験場の前の道路でゼロヨンに熱中するのも、
満足に脚のつかない1300ccのオートバイに乗ってよろけているのも、青山あたりで真っ赤なフェラーリを
停めるのも、ぶらさがり健康器のようなハンドルをつけたハーレーにぶらさがっているのも、俺が深夜の
甲州街道をリミッターのきく速度で走り抜けるのも、みんな心の奥底に無様で根深い劣等感を隠し持って
いるからです。(p.39)
周辺にエネルギーを注ぎすぎるのは、自信のない人のすることなんですよ。
自己が確立されていないと、情報の鎧を纏いたがるんです。
世の中の99%の人は、そうして似非インテリとして生きていくのですが(p.245)

バイク楽しい!という本かと思いきや、このようなはっとする文章に良く出会う。
著者はバイク自身も好きだが、バイクを通して、自分の人生を見たり、反省したり、希望を持ったりして
いることが伝わってきます。


自由というのは、朝昼晩、3度飯を食うということに対してさえも疑問を抱くことなのです。
自分で俺は1日1食でいいと決めることこそが自由なのです。(p.232)
経済とは、飯を食ってウンコをするということです。(p.231)
 我々はなんらかの仕事をして、給料をいただく。俺の場合は原稿料であり印税です。
しんどい思いをして、自分を殺して金をもらうわけです。小説家はわりと自尊心を満
たされる職業ではありますが、肉体的苦痛は尋常ではない。締め切り間際に血尿を垂
らしている自分が不憫です。
 でも、そうして得た金銭で、自らの生存をはかるのです。仕事といえば聞こえはい
いが、やっていることは1日中うなだれて草を食っているバッファローとか、必死にな
って獲物を追いかけて、挙句の果てに逃げられてしょんぼりしているチーターみたいな
奴らと大差ありません。(p.232)
あなたが、ある期間、ぷいと旅に出てしまうということは、金を稼ぐ機会を自ら絶って
しまうということなのです。それは草をはむことをやめたバッファローであり、獲物を
追っかけないチーターになるのです。(p.232)
動物の本能からもっとも逸脱した行動をとっているのです。(p.232)

以上のくだりはすごく好き。
本当の旅とは、ゴールデンウィーク集団自殺じみた大移動を行うことでも、
独りでは動けないからまとまって渋滞の渦中に身を投じて、人間の真似事を
することでもない。



この本の結びも「バイク、大好き!」ではないです。

著者からの、世の中の、日常に行き詰ってる(生き詰まってる)人たちに向けた旅のススメです。
あなたは都民でも県民でも○×株式会社の社員でも△□大学の学生でもない。
あなたでしか、ない。
だから、なにも成し遂げなくて、いい。
あなたを縛るものは、なにも、ない。
行動してください。
行動し、決定するのです。(p.251)

著者はこの本でもちらっと書かれているように、数多く悩み苦しみ、それこそ死ぬほど
悩んだりしたのではないでしょうか。(直接は知りませんし、詳しくもありません^^)
その中から自分を自由にしてくれたツールが著者にとってバイクであり、
そのバイクをとことん突き詰めたのが本書であると。
バイクに関してをとことん書いたのであればもっとマシンのスペックとか処世術とか
ばかりの本でも良いのかなと思います。
そうではなく、この本に「人間」を数多く記しているのは、著者自身の、悩み苦しむ人間たちへの
「旅のススメ」であるからであると感じます。


私は影響を受けやすいからかこの本を読んで程なくしてバイクで日帰り旅行をしました。
意識を吹っ飛ばして、「ただ独りの、主人公たる自分」を意識できる時間というのは贅沢です。

生死を賭けるような危険を冒す、というのも無茶なようですが、生ということの真の意味がここにあるの
ではないでしょうか。生とは死を意識すること、なのです。(p.43)

死を意識して、もっとギリギリをいってみたいと感じた。